第1章 背中をおされて……

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 昭和二十年八月六日。広島に、世界初の原爆が投下された。
 あるいは、事の起こりはこの一発の原爆だったのかも知れない。
 なぜなら、原爆さえ落とされなければ、俺のとうちゃんが若くして死ぬことは
なかったのだから。
 俺のとうちゃんとかあちゃんは、結婚して広島に住んでいたが、戦争が激しく
なった頃、かあちゃんの実家である佐賀に疎開した。
 だから、本当に幸いなことに原爆にあわないで済んだ。
 けれども、すごい新型爆弾が広島に落とされたという話は、当然、佐賀にも伝
わって来る。
 それでとうちゃんは家が心配で、一週間後、ひとり広島へ様子を見に帰ったの
だ。

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「みんな、どこに行ったんや?」
 破壊された広島の町を見て、とうちゃんはこんなまぬけな言葉を吐いてしまっ
たと言う。
 そのくらい、とうちゃんが見た広島には、何もなかったのだろう。
 みんな壊されてしまい、みんな死んでしまったのだ。
 そして、とうちゃんもこの広島行が原因で命を落とすことになる。
 広島にはまだ原爆の放射能がたっぷりと残っていて、とうちゃんは原爆症にな
ってしまったのだ。
 ほんの少し、家の様子を見に行っただけだったというのに……。
 そんな訳で、俺が生まれた時には、とうちゃんはすでに病床の人だった。
 とうちゃんも、そしてかあちゃんもまだ二十代の頃の話だ。
 切ない話である。
 しかし!
 俺は大人になった時、ちょっと待てよと思った。